生活は続く

冷気が漂い心なしか色彩が薄い寒々とした日は、鼻先が冷えて目が覚める。

 

暖房を低温でつけっぱなしで寝ている一人の城で、北海道の東側にある母方の実家を思い出す。物置と化した3兄妹の各人の部屋が周囲にある大き目の客間で、家族5人で並んで寝る特別な時間だった。立派な造りの木造建て。過去の栄華を感じさせるような闇夜に響く木々の軋む音は、幼少の自分にとって恐怖と期待をない交ぜにする記憶に残る音だった。うまく寝付けない僕は、ひんやり冷えた顔を眠気覚ましに、まだ祖父母しか起きていない1階のリビングに駆け下りていく。僕ら3姉弟もいとこ姉妹も兄妹も美味しい美味しいと食らいつく甘めの卵焼きを祖母は焼いている。僕らが来たらいつも焼いてくれていた。遠方からくる孫たちにささやかなご馳走をふるまってくれていた。

 

そんな記憶に残る家も祖父の死後に取り壊されて、いとこ姉妹の長女夫婦の家が建ったらしい。兄嫁の独断的で急ごしらえな判断で行われた取り壊しは、いつしか遠方に住む我々の足を遠のかせた。僕は未だ一度も足を踏み入れていない。

 

 

今日は久々に体調が良い。気がする。泣き喚く声に相づちを打ち続けて夜を明かしたのに何故か成果がでた月曜日の昨夜。夜食に近い夕食のカップ焼きそばを食べて、ドライブインパクトの対応を練習する配信をBGMに気絶するように床に就いたはずなのに。脳裏に聞こえる電話する時の自分の声、思考、背筋に感じる疲労感、そして打ち込まれていく文章。なにやら冴えている気がする。

 

不思議な感覚を持ったまま、今日向けの新品の自分になるためにシャワーを浴びる。やっぱり今日は冷え込んでいるようで、キッチンとトイレと風呂に繋がる小さな廊下はひときわ冷気を帯びている。温い温水を浴びて今日も頑張ろうと独り言つ。シャワーを浴びている時は、色々な発想が下りてくるが、今日のそれは練度が高い気がする。

 

「営業は小さな光明を見つける仕事だから、やった先に自分自身の光明を見つけていくことが継続の秘訣だよな」、「彼の死が薄れている感覚がする、前に進む準備ができてきたのかとも思うが、この感覚はやっぱり少し寂しい」、「年末年始はどう過ごそうか、少し変わったことがしたい」そんな想像しうる全方位に向けた思考をして、始業ギリギリにPCに向かい出す。また体制と制度が変わるらしい。「スタートアップだから」を隠れ蓑にやりたい放題だなと苦笑する。こうして生活は続く。続いていくのだろう。