僕の住んでいた街

 パスタの街、音楽の街、映画の街、達磨の街。大学時代に僕の住んでいた街は色んな顔を持っているけれど、羅列した四つの顔であるとは今も昔も感じていない気がする。いや、パスタの街ってのは記憶にある。1年生の夏に、講義が一緒だったアメフト部のマネージャーをやっていた丸顔の女の子に勧誘されるがままに行った部活見学。その後、大所帯で向かったパスタ屋でその女の子が一生懸命パスタの街としての生い立ちを語っていた気がする。静岡辺りから渡来して、大盛り文化が根付いたんだっけ。意外と覚えているもんだ。

 

そして、今では駅前に広がる風景は様変わりして、OPAなんて名前の駅ビルが出来上がってるらしいし、西口から出て南に向かえばイベントやスポーツなんかをするアリーナだって出来ているらしい。非常に住み良い地方都市だ、ずいぶん偉くなったもんだと居丈高に振舞ってみる。4年間しか暮らしていないけれど。

 

 僕の知っているあの街は、酒の街だ。駅前を出て、チェーンの居酒屋しかないように見せかけて、西口のペデストリアンデッキを降りてすぐ右に曲がったところには、カウボーイのお姉さんのお尻を見上げられるガールズバーだってあったし、女の子と飲めるスナックなんかもあった。他県から来た人を連れていきたい地元の人しか知らない店だって、小さな路地に入れば点在していた。なにより、札幌から出てきた僕が酒を覚えた街だ。良いお酒も悪いお酒も教えてくれたのはあの街だ。

 

 

 今回の混乱が収まったら、僕は僕の酒の街、高崎へ行こうと思う。

 

小旅行感を出すために、各駅停車で行こう。湘南新宿ラインはダメだ、上野東京ラインでゆっくり行くんだ。上野から先は9割埼玉県だけれども。

 

着いたら、西口方面に向かって、石で作られた達磨を一瞥しよう。さっきはかっこつけてペデストリアンデッキなんて言ってみたけれど、そんなたいそうなもんでもない高架橋を右手に進んで、OPAには目もくれず駅前通りに繋がる階段を降りよう。大き目の通りにすぐぶつかるはず。そしたら右だ。少し進んだら右手にガラス張りの3階建てくらいのビルがある。その二階がカウボーイのお姉さんの店。少し早い時間についてしまっていたら、少し進んだ十字路周辺の店に入ろう。カフェでも昼からやっている居酒屋でもいい。その辺りの店は何飲んでも何食ってもそれなりに美味い。

 

高崎に来たなら、柳川町がいい。駅前から歩くのには距離もあるし、土地勘も必要だと思うからタクシーに乗ると良いと思う。「柳川まで」とか「中銀(中央銀座)まで」と伝えると知ってる人感を演出できる。居酒屋はもちろん、老若男女と飲める店が数多ある。商店街の中は、いつぞやの大雪後に改装が入って、少し見栄えは良くなっているだろうけれど、怪しげで薄暗い。映画館の廃墟でダニエルとデイモンのポスターが未だ鎮座している。バイト終わりの深夜、自転車で走る帰路。駅前で飲んで千鳥足で帰る帰路。へべれけの人か、仕事も終わりに近づいた黒服しか歩いていないけれど、寂れた地方都市の涼しい風と風景が思い出される。そんな時の止まった商店街の中に、小綺麗な見た目のキャバクラ・スナックが融合していて、その違和感が余計に面白い。なにより、群馬県は「かかあ天下とからっ風」。ひとたびお店に入れば、だんべー調でSっ気のある女の子と楽しく飲めると思う。保証はできないけれど。

 

 

 ひとしきり飲んだら、やっぱり「締め」だ。柳川にももちろん遅くまでやってる店はあるし、オススメもあるけれど、締めならやっぱりあそこへ行くべきだと思う。締めでなくてもあそこへ行くべきだと思う。なんならここからが本題だ。

 

「麺処 湊生」だ。「みなせ」と読む。さっき言った駅前の十字路の高島屋とOPAの間の通りにあるお店。駅前にも同じ景勝軒グループの湊生があるけれど、そこじゃない。ペデストリアンデッキに面していない、ノンペデストリアン湊生のほうの湊生。そこで「まぜそば」をすするんだ。

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まぜそば(中盛り)

夜分に取るには背徳感しかない見た目だ。その通り、パンチがあり重め。「ラー油どうしますか?」と聞かれるが、かけて食してほしい。変な呪文はここでは必要無い。「中盛りまで無料」との勧誘もあるが、増して食してほしい。並盛りでは物足りなさを覚えるはずだからだ。ラー油、卵黄、チーズ、ニンニク、角切りチャーシューを全体にいきわたらせるべく混ぜる。味玉も割ってかき混ぜてしまっても良い。ラー油の赤みが全体に行き渡ったら準備は万端。かっ食らってほしい。

 

食べ応えのある中太麺はどこか食べ慣れた雰囲気を覚える方もいるであろう。そもそもこの湊生、ラーメンを食べ歩く方なら誰しもご存じであろう大勝軒から分かれた麵屋こうじグループが母体で、群馬中心に栃木県、富山県へも進出している景勝軒の系列店だ。地産地消を掲げ、群馬県産の食材を使用している。小麦もこだわって群馬県産を使用している。大勝軒を土台にグンマナイズし進化したものである。いわば、友好の証。いわば、パスポートである。

 

情報を食らう方用の能書きは置いといて、このまぜそばのキモは自家製ラー油とチーズの親和性だ。もう氷室と布袋だ。たっぷり堪能して、もてあましてるフラストレーションをイージーデイしてほしい。ゲットワイルドしてほしい。いや、これはTM NETWORKだ。完食した頃には虜になっているはずだ。本当に美味い。飲んだ後は勿論、昼行ったり、バイト前行ったり、バイト後行ったり。作り手によってやっぱり少し味は変わるもので、僕のお気に入りは深夜の少しやんちゃそうな兄さんが作るのが好きだった。半年前に行った時はもういなくて、味も変わって感じてしまったけれど、やっぱり美味しかった。本当に美味い。

 

 締めた後は、近場の激安素泊まりに赴くも良し。東口に回って駅直結のリゾートホテルに洒落込むも良し。翌朝の胃もたれに備えるだけである。こんな妄想を繰り広げていたら、余計に外が恋しくなってきた。今はただじっと終息に向けて力を溜めよう。明けたその時に見知った街の人と力いっぱい酒を飲むために。もちろん、締めでまぜそばをかっ食らうために。

 

 

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